回想のブリッジ(上)
歳をとり、好みが変わっていっても、かつて愛したという事実がいまだ心に刻まれ、消え難い音楽というものがないでしょうか私にはあります。
今一番好きなバンドは?と問われれば、ちょっと悩んで「キリンジかな…」と答えますが、一番好きだったバンドを訊かれれば、
「ブリッジ」
即答です。
どれくらい好きだったかというとですね、そう、ブリッジ…。わが命のともしび、わが肉のほむら。わが罪、わが魂。ブ、リッ、ジ。舌のさきが口蓋を3歩進んで、3歩目で軽く歯に当たらない。都内で行われたライブにはほぼ全て足を運び、後期にはライブが始まると目が潤んでました。そのくらい好きでした。
左から大友真美(v)大橋伸行(g)黒澤宏子(d)加地秀基(b)池水真由美(k)清水弘貴(g)
ブリッジは89年に結成され、95年に解散した日本のバンドです。今年で解散20周年なんですね。カジヒデキのいたバンド、渋谷系、フリッパーズギターのフォロワーみたいな語られ方をしますが、いやいやいやいや、浅い、浅い見方ですよ。そういう人たちが「ギタポ」とか言うんです。
とは言いつつも、ブリッジの良さを語るのは難しいです。ライブ行かないと分からないんです。その良さが。なので今さらどうしようもないですが、それでも何とかブリッジの素晴らしさを伝えたい、というのが今回の話です。
最初に観たライブのアンケート。ライブ毎にアンケート取っていて、それに随分失礼なことを書いていました。ホントにすみません。セットリスト7曲中5曲が1stアルバムに収録。
私が初めてブリッジを見たのは、90年の新宿アンティノック、ヒットパレードのライブの前座で出てきたときです。2回目のライブだと言っていました。
ヒットパレードを観に来ていた私にとって、前座に出てきた日本のバンドなどまるで眼中にありませんでした。なぜ日本にはネオアコのバンドがいないんだろうと思いつつも、ロックはイギリス、アメリカが本場で日本のは…と大して知りもしないくせに勝手に日本のバンドはダメだと思っていました。
そのちょっと前はボウイとか、その頃はイカ天のバンドとかが流行っていて、インディーズ系の洋楽を聴く人にとって邦楽とのギャップは大きかったです。そうしたリスナーが寄り集まって、フリッパーズギターやブリッジを生む土壌を作っていたんですが、そんなことには気付いていませんでした。
最初の数曲は聞き流してました。何語で歌ってんだろうとか思ってたんですが、そのうち、あれ、このバンド面白いなと思うようになりました。でもそのときは、何かいいなくらいで、お目当てのヒットパレードより好きになるとは思っていませんでしたが。
bridge 'he, she and i'
しかし、2週間後にハウ・メニー・ビーンズ・メイク・ファイブのライブで再会し、その後もヴェルヴェット・クラッシュなんかのインディーポップのバンドの来日ライブ観に行くと、いつも前座をやっていて、気が付くと洋楽バンドと一緒じゃなくてもライブに行くようになってました。
90年のクリスマスライブのDM。カジ君の電話番号が出てるので下はカットしました。まあ変わってるでしょうけど。DMに自宅の電話番号を載せる時代。しかも一桁少ないし…。
92年のDM。来るのが楽しみだったDMも、1stアルバム後はお手製イラストじゃなくなって残念でした。
私と同じように洋楽をメインに聴いている層から流れてきたファンが結構いたと思いますが、そうした海外のインディーズ系のレア盤を漁っている人たち、普段邦楽には見向きもしない人たちにアピールするものがあったわけです。でも面白いことに、そうしたバンドと親和性はあるものの、違う曲、違う音をしていました。
ブリッジというと、ボーカルの大友さんのちょっと拙い感じのかわいい(というのも気恥ずかしいですが)声と、池水さんの弾くキレのあるアコーディオンが特徴で、タルーラ・ゴッシュにも通じる、野郎には縁遠い、いわゆる「ガーリー」なイメージが強いと思います。
talulah gosh 'talulah gosh'
大友さんの作った「room」、「motorcycle angel」は、上記のイメージが当て嵌まるようなところもありますが、タルーラ・ゴッシュの凄いアマチュア感に比べてしっかりしてますよね。ブリッジはメンバー何人かが曲が作れて、作詞作曲入り乱れてるんですが、パンクに毛が生えたような曲(それはそれで好きです)はなくて、今聞いても良いなと思える完成度の高い曲を、初期の頃からみんなで作れたんですよ。彼らもインディーポップ好きだったんでしょうが、そこに留まらないセンスと、志があったと思います。
クレジットを見る限り、初期は大友さんの比重が大きかったですが、ほかのソングライターの清水、カジ、後に加入する大橋の3人も解散後にソロでやってったくらいで、当時から良い曲作ってました。ギターの清水君は「change」のような疾走感のある曲や、後の「splash」や「there're smile」もそうなんですが、メロウかつ熱い曲でまた違う色を加えてました。ロックぽかったですね。私は彼の曲やプレイが大好きでした。
後期には主役となるカジ君も、すでにソロ作と遜色ない「he, she and i」を作っていて、こうした複数の才能のある、個性の違う作り手が協同して曲を作ったことが、海外のインディーズバンドにはないクオリティを生みだし、そういったバンドのファンも自分たちの好きな音楽との共通性を感じながら、そこにない素晴らしさを認めていたんです。こんなバンドが日本にいたのか!こんな近くに。ロリポップソニックを発見した人たちもそう思ったでしょうが、私にとっては彼(女)らが運命のバンドでした。
でもですね、ブリッジを特徴付けていたのは、ちょっとドタバタとしたグルーヴで、曲の良さも、このリズムがあったからなんです。
そういったところがCDでは分かりづらいんですよね…。ライブの音は厚みもあって、結構荒削りだったんですよ。それが曲の魅力を引き出していたんです。生で聴いてこそ、それが楽しめたんです。
ライブでは、清水君のギターが一番デカい音がするんですが、彼が非常に上手いんですよ。確か並行してジャズもやってたと思うんですが、きっちりした運指で早めの小難しいフレーズも弾けるし、グルーヴも作れました。
そして、初期の頃は控え目でしたが、カジ君のベースもグルーヴがあって、バンド全体に勢いを与えていました。黒沢さんのドラムがちょっと不安定なんですけど、2人に煽られるように叩いて、これが独特のリズムになってたと思います。それに池水さんのアコーディオンや、大友さんのボーカルが乗っかり、他にはないサウンドになって、それが魅力でした。
だから1stアルバムを聴いたときにはちょっとがっかりしました。小綺麗な音にまとまって、らしくないなと。アレンジもなあ…。ブリッジはライブバンドだった、というより、スタジオ録音したものが魅力を伝えきれてなかったとも言えます。
私が彼らのスタジオ録音で、ライブに近い音だと思ったのは、トラットリアからCDを出す前の、「innocence and peppermints」というコンピレーションに入ってる曲です。でもこの2曲、大人しめの曲なんですよね。
bridge 'silly love'
しかしですね、他を圧倒するような演奏だったかというとそんなことはなくて、対バンのロッテンハッツにあっさり持ってかれたりとかもしてですね、そうしたとこもまた魅力なんですが、でも、唯一無二のサウンドを響かせ、それはほかでは聴くことができなかったんです。「kiss my thought good-bye」のイントロが鳴り出したとき、「going to the sea, you kiss me」の間奏の間、ああブリッジがいて良かったと、心の底から思っていました。
ということでまだ書き足らないので続きます!(→回想のブリッジ(下))
トラットリアのイベントでのライブがYouTubeで見れるんですが、これもあんま良くないですね。ああ残念…なんとかライブ音源がないだろうか…と思っていたら何かありました。あったんですってば。
94年のライブで初期とはまたサウンドが変わってて、録音も良くないんですが、書いたことはある程度分かってもらえるのではないでしょうか。pt2は回想のブリッジ(下)で。(アプリをダウンロードしてねみたいな表示が出ても、右上のバッテン押せば消えてそのまま聴けます。)