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boofoooohの日記

サッカー/音楽/本/大人になってからのフットサル

ネストール・アルメンドロス「キャメラを持った男」をついに読む

買ったけど読んでない本ってありますか?借りた本は返さなきゃいけないからすぐ読むけど、買った本はいつ読んでもいいから、何となく読まずにそのままになってる本。買ったことに満足して、読むまで至ってない本。私にとって、ネストール・アルメンドロスの「キャメラを持った男」は、つい最近までそんな本の1冊でした。

 

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この本は、訳者である武田潔の講演で知りました。アテネ・フランセという外国語学校の文化センターでのもので、エリック・ロメールの「クレールの膝」の上映とセットで行われました(確か)。私にとってアテネ・フランセは、淀川長治が映画の講座をやってた憧れの場所でしたが、どうやって映画を観るのか良く分からず、敷居が高い感じがして、近くの学校に通うことになってやっと出入りできるようになりました。時代はまだフランス映画が偉くて、ヌーヴェルヴァーグもリバイバル上映されると結構雑誌なんかで特集されてた頃です。私はお勉強のようにエリック・ロメールの作品を追っていた折、ちょうど上映されるのを知ったんですが、「キャメラを持った男」というタイトルの講演とセットで、それが何か全く知らないまま、とりあえず聴くことにしました。

 

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日本版のポスターは、ちょっとやっつけ気味のなんですが、20年近く私の家の壁を飾ってます。

 

ネストール・アルメンドロスは、スペイン出身の映画カメラマンで、フランコ政権を逃れて亡命した父を追い、家族と共にキューバに移り住みますが、カストロ政権下での制作活動に不自由を強いられ、フランスでキャリアを積み、やがてアメリカでも素晴らしい撮影監督として名を成します。

エリック・ロメールの一連の作品、トリュフォーの「野生の少年」「アデルの恋の物語」等のヌーヴェルヴァーグの作家の作品を始め、テレンス・マリックの「天国の日々」、ロバート・ベントンの「クレイマー・クレイマー」、「青い珊瑚礁」なんてのも撮ってますね。

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おお、この色使い。

 

講演で覚えているのは、彼が非常に自然光を大事にしたこと、ろうそく1本が照らす世界を映し出していたことでした。

エリック・ロメールの作品はまあ納得なんですが、そんなカメラマンが最近の「ビリーバスゲイト」みたいなハリウッド作品を撮っていることを聞いてちょっと驚きました。そういや「クレイマー・クレイマー」って何か奇麗だったよな、と思ってそれまでボーッと聞いていた話が、ようやく頭に入るようになってきました。時期的に、ネストール・アルメンドロスが亡くなったことを追悼してのものだったと思いますが、それすらも聞き流していたくらいボーッと聞いてたんですが。

武田潔の語り口は優しく、温かみのあるもので、ネストール・アルメンドロスとの電話のやり取りを録音したものを聞かせてくれたりして、彼や彼の作品に対する愛情がとても感じられました。

 

そんなわけで、講演が終わった頃にはすっかりネストール・アルメンドロスのファンになり、彼が書いたこの本が読みたくなってたんですが、本屋で見つけたら高え!4,000円近くしたんで二の足を踏んでしまい、そのうち絶版になってしまいました。

就職して懐に余裕ができたんですがモノはなく、心の底に引っかかりながらも時は経っていったんですが、そのうちヤフオクなるものが現れました。売ってました。800円でした。ネット初心者だった私は、メンドくさいんで知人に頼んで購入してもらい、ようやく手に入れることができました。

再会を喜び、パラパラとめくって、本棚の良い場所を空け、そこに置きました。そして10年以上時が経ちました。

なんで読まなかったんですかね。勿体なかったんでしょうか。何度か手に取ったんですが、集中して読みたいなとか思って、棚に戻してました。

今思ったんですが、取っておいた高いワインみたいなもんですかね。いつ開けるか考えちゃうような。しかし、今回、このブログが始めてからちょうど1年経つのを口実に、次のネタにするからと、じっくり読んでみることにしました。自然光を大事にした著者の作ゆえ、飲み物持って公園のベンチでときどき寝っ転がりながら。

 

この本は、映画の撮影技術を主題におきつつ、映画のあり方や、映画監督の個性、俳優についてなど、技術屋さんらしい合理性と映画に対するこだわりを、情熱的に語ったものです。ネストール・アルメンドロスは、作品1つ1つについて、使った機材やセットについて語りながら(全部記録してるんだろうなあ)、その作品がどう撮られるべきであるかについても言及しています。

映画の撮影という極めて視覚的な話をしているにもかかわらず、その情景の描写ではなく、どのようなセットを作り、どのような照明を当て、どのようなカメラで撮ったかを語ることで、読者の頭に映像を浮かび上がらせます。この優れた言葉による伝達能力が、彼が他と一線を画す撮影監督だった理由なのかもしれません。

1990年に出た本で、多くは80年代初めに書かれているんで、いま現在の技術とはひどく違っているかと思いますが、こうやって映画を撮るのかと、非常に興味深く読むことができます。照明の技術なんて、大して変わってないんじゃないでしょうか。彼が見せたこだわりが、いまだにその作品を美しく見せているのだと思います。

というより、彼が現場で見せた創意工夫がどれだけ効果があったか、改めて作品を観て確かめたくなります。十分に読み応えのある作品で嬉しかったですが、もっと早く読んでれば色々映画を観る機会もあったので、ちょっと損をしたかもしれません。

 

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絵画についての教養を大切にしていて、本の中でもたびたびその影響について言及しています。上はワイエス、下はフェルメールっぽいですね。