斎藤隆介「天の赤馬」を読む
ひどい雨でリーグ戦が中止になってしまい、せっかくの断酒が無駄になってしまいました。いや、身体には良いから無駄じゃないか。でも反動からか大量に飲んじゃったけど。
ああ遠い昔、酒など飲んでいなかった頃、子どものときには何に胸を熱くしていたか。本でいうとガンバと15ひきの仲間が出てくる「冒険者たち」シリーズは熱かったです。アニメが先でこれも良かったんですけど、原作を買ってもらって夢中になって読みました。そして同時期に同じくらい熱くなったのが斎藤隆介「天の赤馬」です。
絶版過ぎて画像検索しても出てこないんで図書館から借りて撮りました。
今はどうだか分からないですけど、私が小学生の頃は教科書に斎藤隆介の作品が良く載ってました。「半日村」、「モチモチの木」、「花さき山」などなど。滝平二郎の切り絵の挿画が印象的で、絵本は今でも良く見かけますね。
斎藤隆介の作品はほかに「ベロ出しチョンマ」という将軍に直訴した父親と一緒に殺されてしまう男の子の話とかあって、左がかったイメージがあるかもしれませんが、この作品は、隠し銀山で強制労働させられる囚人と圧政に苦しむ農民が手を組んで暴動を起こすド直球な話です。でも子ども向けです。学校の課題図書になっていました。
あらすじは貧しい村の男の子が、イワナ釣りをしているときに隠し銀山の存在を知ってしまい、自身追われながら凶作と圧政に苦しむ村と過酷な労働を強いられる銀山の労働者の伝達役となって、一揆と銀山の暴動を同時に起こさせるべく奔走する、というものです。ええそうです。児童書です。
子どもの頃読んで面白かった本も、大人になってから読むと御都合主義的なところが目についたりして、印象が変わってしまうことがありますが、ちょっと主人公が立派すぎないかと思った以外は、冒険物語として十分面白いです。冒険の舞台は権力者に立ち向かって起こす暴動ですけど。
丁寧な語り口で、なぜ一揆や暴動が起こるのかということが、分かりやすくきちんと描かれてます。村と銀山のリーダーが、単に感情的に暴動を起こすのではなく、仲間の裏切りに備えたり、誰を押さえていつ動くのがいいかということを思案するんですが、それを主人公がどうすればあんな大人になれるのかと感心する場面があったりして、子ども向けの話にそこまで…と思わせるところが本書の魅力です。
横暴な役人を殺してしまった銀山の人間が、村へ主人公と降りていって共闘を呼びかける場面があるんですが、行動派と穏当派との対立とかあって、そこら辺もリアルです。ヌルいこと言うヤツが悪し様な描かれ方してたりしますが。
夜とか穴の中とか暗闇の場面が多く、そのなかで息を潜めている主人公たちの緊迫感が良く描かれ、全編スリリングです。主人公が途中捕まって拷問されたり、暴動での戦闘シーンの描写もあり、結構バイオレンスだったりもして、熱いままクライマックスへと向います。
村と銀山のリーダーがとにかく冷静沈着で思いやりがあり、闘争はいかに冷静なリーダーを置くかというか、リーダーかくあるべしという作者の思いがビンビン伝わってきます。この本を読む子どもたちにそれを伝えたかったんでしょう。
俺も大人になったら反体制組織の立派なリーダーになるぞと、どれだけの子どもが思ったか分からないですけど、大人の世界のスパイスが効いた、ドキドキハラハラの展開は今読んでも面白いです。以前から絶版なのはテーマのせいなのかもしれませんが、ぜひ図書館で手に取ってみてください。
モチモチの木もよろしく。