こないだWOWOWでレオス・カラックスの作品がいっぱいやってるなと思ったら、昨年日本で公開された「ホーリー・モーターズ」を放映するからだったんですね。
一つ前の「ポーラX」はかなり前のめりで観に行ったんですが、今度の作品はこれでやっと知りました。私がボーッとしてたとは思うんですが、でも公開当時、レオス・カラックスの新作にしては地味なプロモーションだったんじゃないでしょうか。
カラックスの「ポンヌフの恋人」が公開された頃は、フランス映画がブイブイいってた気がしますが、最近は当時公開されてた作品の再発とかリバイバルとかもなく寂しいなと思ってたところです。カラックスはブルーレイで初期の作品が再発されるんで、まあ良かったなあと思いましたが、ジャン−ジャック・ベネックスの「ディーバ」のブルーレイ再発はないんですね。ということで「ディーバ」を応援したいなと思いまして、今回は「ディーバ」のお話です。
映画館で観たのはインテグラルでした。「フレンチ」が流行りだった末期ですかね…。
「ディーバ」は、80年代初頭に作られたフランスの映画です。物語は、オペラ好きの主人公が、決して録音はしない女性歌手のリサイタルを隠し録りしたテープ(80年代ですから)と、偶然主人公のバイクに隠された売春組織の告発テープをめぐるサスペンスです。
主人公は2本のテープと命を狙われつつ、憧れの歌手と段々お近づきになっていき、ハラハラドキドキの展開をしていきます。
監督のベネックスは、のちに日本に来て「OTAKU」というドキュメンタリーを撮っていて、自分もこの主人公もオタクだと語ってます。確かに主人公の青年は、生活感のない、好きなものに囲まれたロフトでオペラを聴くのだけが楽しみなんですが、いわゆるオタクと違って圧倒的にオシャレです。オシャレなオタクというと、せいぜいちょっとカッコ良くなったジャック・ブラックあたりを想像するかもしれませんが、全然違います。
オシャレというか趣味が良いんですよね。それはこの映画全般にいえることで、小道具や登場人物のキャラクターも魅力的です。それらが素晴らしい映像美に彩られ、特に主人公と歌手がデートする明け方のチュィルリー庭園はため息が出ます。これ観てパリに行った人がいるに違いありません(私です。)。
しかし、何といっても最初に印象に残るのは冒頭のリサイタルのシーンだと思います。
"la wally :ebben ne andro lontana" wilhelmenia wiggins fernandez
ヴィルヘルメニア・フェルナンデスが演じるシンシア・ホーキンスという歌手が歌うこの素晴らしい曲は、おそらくこの映画によって、オペラを聴かない人にも知られるようになったのではないでしょうか。
普段ポップスを聴く人は、なかなかクラシックに触れる機会はないですが、そんな人こそ惹き付けられるようなシーンです。
この映画はサントラもなかなか出来が良くて、場面を盛り上げるようないかにもサスペンス風な曲と、このアリアやシンシアが練習で歌うアベマリアなんかが混在しているんですが、不自然な感じなく溶け込んでいます。
チュイルリー庭園のシーンに流れる曲もまた良いです。
主人公が危なくなると謎の芸術家が助けたりして、かなり御都合主義的なところもあるんですが、リシャール・ボーランジェ演じるその芸術家がなかなか良い味出してて、あまり気になりません。というかむしろカッコいい。
シンシアの歌を録音したテープを聴かされて、イントロクイズのように「ラ・ワリー、シンシア・ホーキンス。彼女の録音は存在しないはずなのに…」と、一発で当てるシーンに当時高校生だった私は痺れました。
御都合主義と書きましたが、これだけセンスが良かったりすると、物語もヒネってしまってなんだか分からん話になってしまいがちなところを、あー面白かったと思えるよう上手くまとめているといった方が良いかもしれませんね。
ジャン−ジャック・ベネックスはこの後、「ベティー・ブルー」を撮っていて、むしろそっちの方が有名かもしれません。私は断然こっちのが好きですけどね。未見の方はぜひご覧になってください。
好きな映画って何?と訊かれたらこれだと即答してました。