boofoooohの日記

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リチャード・ブローティガン「西瓜糖の日々」を読む

みなさん、眠くないですか。

私、数年前から昼間の眠気が激しくなって、仕事中ボーッとしてしまうんですが、白昼夢を見るダメ探偵が出てくるブローティガンの「バビロンを夢見て」みたいだなと思ってたら、先日睡眠時無呼吸症候群と診断されました。メタボじゃないんですけどね。幸い軽症だったんですが、でも81秒も息止めてんですよ!知らぬ間に。夜中に息を潜めて昼間うとうとしてる慎ましい生活を送る日々です。

 

さて、リチャード・ブローティガンとの出会いは、「アメリカの鱒釣り」でした。授業の20分くらい、ひどいときには半分以上をお喋りの時間に使う予備校の講師(何を教えてたっけ)から勧められて読んだものです。

当時、高橋源一郎が好きだった私は、「これか」と驚きました。あの小説とも詩ともいえない自由な文体は、ここから来たのかと。

その後読んだ「愛のゆくえ」は、普通の小説の体を成していましたが、現実とは違う、独特の世界を舞台にしているところは変わりませんでした。「バビロンを夢見て」はそんな世界が現実に翻弄され、ヘロヘロになっていく様子を描いていたように思えましたが。今回ご紹介するのは、これもブローティガンらしい世界を描いた作品です。

 

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絶版じゃないですよ!ちなみに西瓜糖って本当にあるんですね。本書のイメージと大分違いますが…。

 

「西瓜糖の日々」は、「きまった名前を持たない」主人公が、アイデス(iDEATH)という共同体の中で暮らす様を描いています。アイデスは、色んなものが西瓜から取れる砂糖でできています。過去に言葉を喋る虎が住んでいて、主人公の両親は虎に食い殺されてしまいますが、虎はもういません。アイデスは、「忘れられた世界」と接し、その入り口付近には酔っぱらいで乱暴なインボイル(inBOIL)とその仲間が住んでいます。

西瓜糖でできたアイデスの情景は牧歌的に描かれ、平穏に満ちています。インボイルたちは、その平穏に異を唱えるように自分達の身体を切り落として死に、物語は、主人公のかつての恋人が自殺し、彼女のお葬式を行うところで終わります。

このようにアイデスには死が取り巻いているのですが、その死に対し、アイデスの人々はあまり嘆き悲しみません。まるで最初から死んでいたかのように。語り手である主人公を、というか作品全体をある種の寂しさが覆っていて、個々の出来事自体を悲しむ必要がないかのように淡々と描かれます。

 

生きることは静かに死んでいくことなのか、傷つけることなのか、問われているようにも思えますが、そのどちらにしても悲しい結論であるには変わりません。美味しい食事と、優しく、素敵な身体を持つ恋人が出てきて、生きる喜びを表しているようにも思えますが、かりそめの喜びのようにも思えます。

しかし、夢見るような、西瓜糖が作る優しい世界にあって、愛し合ったあと、安らかに眠る恋人を残し、主人公は眠らずに夜のアイデスを歩きます。そうした覚醒しようとしている姿を、ブローティガンは書きたかったのではないでしょうか。

 

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