boofoooohの日記

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イーサン・ケイニン「エンペラー・オブ・ジ・エア」を読む

こないだ、久々に小説を、ポール・オースターの「幻影の書」を読みました。オースターはニューヨーク3部作が出てしばらくは追っかけてたんですが、ある時期あまり小説を読まなくなって、彼の作品に触れていませんでした。コンスタントに出してるんですね。読んでないのが結構ありました。

「幻影の書」は、初期の作品にあった驚きのようなものはないですが、落着きを持った良作だと思います。重層的で、色々と考えさせられる構成になってますが、全体を通して、人間に対するオースターの温かな目を感じました。そして、同時期に出てきたイーサン・ケイニンのことを思い出しました。

 

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「エンペラー・オブ・ジ・エア」イーサン・ケイニン

 

これは、80年代後半に幾つかの秀逸な短編で注目を集めたイーサン・ケイニンの最初の単行本です。短編集で、どの作品も瑞々しく、そしてある種の苦さを伴っていて、読後に静かな余韻を残します。

冒頭の表題作は、主人公が自分の家の樹が原因で隣人と諍いを起こし、樹を守るために忍び込んだ隣家で隣人親子の会話を聞いて…という話。これはちょっと良い話風なんですが、他の作品はちょっと暗めで、ナイーブな人達が日常抱えてる不安と対峙する中で起こる出来事を、暗闇の中で一瞬煌めく光のように描き、その残像を読者は主人公の目線で見つめるように書かれています。

どこかちょっと壊れてしまったような、幸せとはいえない状況なんだけれども、そんな中から見える、それでも生きていくということについて、作者は温かな視点で描いています。多分、サリンジャーの「ナイン・ストーリーズ」が好きならきっと気に入るでしょう。

正に帯にあるような青春小説ではあるんですが、非常に抑制が利いていて、それでいて胸を衝かれるような感じがします。20年振りに読み返したんですけど、改めて感動しました。

イーサン・ケイニンはこの後何作か出すんですが、寡作なこともあり、今ではすっかり忘れられ、この本も絶版です。ポール・オースターはあんなメジャーなのに…。でもこれは、アメリカの小説が好きなら、ぜひとも読んでもらいたい作品です。