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boofoooohの日記

サッカー/音楽/本/大人になってからのフットサル

新しい日 新しい声 堀込泰行「One」を聴く

音楽

10の次は1。脱退前の最後のキリンジのアルバムは「Ten」でしたが、待望のオリジナルアルバムのタイトルは「One」でした。私は地味ながら良曲の多い「Ten」大好きだったので、「11」「ネオ」とどんどん姿を変えていくKIRINJIに、それはそれで楽しみつつも、ああいうのはもうないのかなあと思っていたら、堀込泰行のこのアルバムは、地味だからこそ曲の良さが生きるような、そんな作品でした。

 

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グランド・オダリスクは何か意味があるに違いない、と思って色々調べてたんですけど、ただのデザイナーの趣味だったもよう…。

 

自身による全曲解説がオフィシャルで出てましたが、1曲目「New Day」は「スティービー・ワンダードナルド・フェイゲンと90年代以降のR&Bが混ざったような曲調にしようと思っ」たそうで、曲調は確かにそうなんですが、2人の作品にあるような緻密さはないです。地味と書きましたが、粗いといった方がいいかもしれません。

アルバムはタイトなスケジュールで制作されたそうで、ホーンが入ったり、冨田恵一が参加している曲もありますが、キリンジのような作り込んだ感じはありません。ライブでそのままやってもいいんだろうなって曲ばかりです。

オフィシャルのインタビューで語っていましたが、脱退後の方向性として、歌手として行くのか、バンドでやってくのか、周りからは歌うのに専念するよう推されたそうなんですが、「自分で曲を書いて歌詞を書いて自分で歌って、サウンドのこともあれこれやってっていう、それら一連をやりながらワクワクしている様子がアルバムとか楽曲に閉じ込められればいいなと思って」制作からかかわっていくことにこだわったそうです。

まあスタッフのいうことも分かる気がしますけどねえ。希代のソングライターと組んでたのを1人でやってくことにしたわけだし、なにより歌い手としての評価が高いわけですから。馬の骨の制作もかなり苦しんだそうだし。こいつ自分でやるって言ってるけど大丈夫か?ていうかそれなら早く曲書けよ!というのをオブラートに包んで説得してたんでしょうね。

前作のカバーアルバムはリハビリだと思ってましたが、スタッフの思惑と本人の意志との軋轢の中から生まれたのかもしれません。しかし、ようやく本気を出した堀込泰行のアルバムは、等身大でありながら、それが魅力的な作品となりました。

 

そのバンドは、本人によると「エルヴィス・コステロみたいに、シンガー・ソングライターだけどバンドマンみたいな佇まいが良いなあって前から思って」最終的にはアトラクションズを目指しているそうで、「WahWahWah」はいかにもな感じになっています。ちょっとリズムが軽い気もしますが。全体的に70年代的なサウンドになっていますが、コステロ調に限らず、曲調、アレンジはバラエティに富んでます。2曲目「shiny」はニッキー・ホプキンスの「ウェイティング・フォー・ザ・バンド」を思い起こさせるイントロで始まるアレンジが見事に曲を盛り上げ、感動的な出来映えとなっています。次の「swamp」改め「walz」のスローな3拍子の曲から先ほどの「WahWahWah」に繋がるんですが、この辺は聴けば聴く程いいですね。

 

nicky hopkins 'waiting for the band' この曲大好きなんですよ。

 

次の「ブランド・ニュー・デイ」は以前に配信したシングルですが、「どうでもいいさ」で始まるんですね。ほかにも「それがどうした」(「WahWahWah」)や「New Day 何かが少し違う」(「New Day」)なんて始まったりする、制作時の心境が伺えるような曲があります。「さよならテディベア」は本人もインタビューで語っていたとおり、脱退後にありがたいお説教をくれた人達に対する皮肉そのまんまです。

 

最後の「僕らのかたち」は、ストリングス風のアレンジがされた優しげな曲ですが、それから想起される曲で映えるだろう彼の歌声は、しかし、今までのようには響きません。

アルバム聴いて一番驚いたことなんですが、歌い方が変わりましたよね。声が、地声というか喋るときの声に近い。私は堀込泰行というと、キリンジの「for beautiful human life」のラスト2曲、「カウガール」「スイートソウル」のどちらも彼の書いた、彼の歌声が胸を打つ曲に、その才能の凄さを感じていて、こういう路線で行ってほしいなと思っていました。

だもんで1曲目から違和感があって、一瞬、あのチープなシンセドラムの音で始まる前作の衝撃が甦ったくらいでした。でも、聴き進めていくうちに、この声でいいんだと思いました。今、彼の書く曲にはこちらの方が合っていると思います。この声が地味とか粗いとか感じた一番の原因かもしれないんですが、アトラクションズを目指すならむしろこちらでしょう。

 

elvis costello and the attractions 'radio radio' 

 

派手さがない分何度も聴けるので、曲の良さもじわじわと分かるようになって、私は大変気に入りました。おかげで、そのサウンドと相俟って、まるで昔から持ってるアルバムのような錯覚に陥ります。上述したような生みの苦しみも感じられ、味わい深い作品です。

バンドは、伊藤隆博と北山ゆう子に沖山優司でいくんでしょうか。KIRINJIも腕っこきですが、こちらも豪華なんで、良い作品をこれからも出していくんでしょう。進め、アスファルトのフロンティア。

 このアルバムは、KIRINJIとは別の意味でライブが楽しみな気がします。アルバムよりもっと良い演奏が聴けるんじゃないかと。今度のライブ楽しみと思いつつ、12月のその時期、しかも月曜日、無理、な状態なので、来年、楽しみにしています。