boofoooohの日記

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イーディス・ウォートン「幽霊」を読む

前回、フットサルのリーグ戦で3位になった話を書いたときは風邪かなと思ってたんですけど、その後熱が再び上がってしまい、何かなと思ったら肺炎になってました。
リーグ戦のときには喉が少々痛くて痰が出るくらいだったんですが、雨降って寒かったせいか、次の日忙しい中ブリットニー・パイヴァ観に行っちゃったからか、さらに次の日昼間フットサルやったせいなんですかね…。

肺炎って頭痛くなるんですね。咳はあまり出なくて、そっちでまいりました。幸い入院には至らなかったんですが、またしばらくの自宅療養となってしまい、その間読んだ本を今回ご紹介。

 

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イーディス・ウォートン「幽霊」

 

イーディス・ウォートンは、20世紀初めに活躍したニューヨーク生まれの作家で、映画にもなった「エイジ・オブ・イノセンス」の作者でもあります。この「幽霊」は、彼女が幽霊を題材に描いた短編をオムニバスにしたもので、この日本版にはオリジナルに2編加えられています。

彼女は幽霊というより幽霊物語が好きなようで、幽霊を見るのではなく、「幽霊を感じる」ことを物語に求め、また、自身の作品に表そうとします。そして、「物語を読んで背筋がぞっとしたら」その物語は役割を果たしたといえると、自ら序文を記しています。

この序文は作品の最後に載ってるんですが、私は少なからず驚きました。だってですね、背筋ぞっとしない話ばっかりなんですよ。

いや、ある意味ぞっとはします。でもそれ幽霊が出てくるとこじゃないんです。序文読むまでは、幽霊物語は振りだけで、本当は生身の人間の悲劇を描きたかったのではと、得心してました。

 

最初の1編は、フランスのブルターニュ地方のお屋敷が舞台。売りに出ているというので友人の勧めで見学に行った男が、不思議な犬の一群に遭い、その犬が幽霊だと聞かされて昔の館主の歴史を調べると…という話。

館には再婚した初老の夫と、若く美しい妻が住んでいたんですが、夫は気難しがりやで容姿もイマイチ。しかし金は持ってるんで色々妻に高価なプレゼントをして気を引こうとします。そして妻は極力家の外に出さない。
妻が寂しがるんで、ある日犬を買ってあげたらこれが大ハマりだったんですが、彼女は犬だけじゃなく、あるきっかけから、近所の若い男ともいい感じになります。
が、それに勘づいた夫がワンちゃんを殺しちゃうんですね。
それからというもの、夫は彼女が飼う犬飼う犬を絞め殺します。そしてある日、とうとう密会の現場を押さえるんですが、何者かに切り裂かれた死体となって発見されます。裁判にかけられた彼女は、かつての飼い犬(幽霊です)が噛み殺したと証言して、狂人として幽閉されてしまい、若い男の方は一度は捕らえられるも家が金持ちで釈放され、修道院に身を落ち着けることになったそうな…。

 

いやこれ若者がやっちゃったんでしょ。奥さんも飼い犬の恨み溜め込んで…というより囚人みたいに囲われたことで憎んでたでしょ。ワンちゃんが化けて出たい気持ちも分かるけど、ワンちゃんは無実ですよ!

ウォートンは、これを現代(といっても20世紀初め)の主人公が、当時(1600年代)の裁判記録を読み解くかたちで読者に語っていきます。良くある人間関係の筋書きに、不可解な死と犬の幽霊を持ってくることで、本当は何が起こったのだろうかと読者に考えさせます。初老の夫の劣等感や嫉妬からくる歪んだ憎しみ、不幸な結婚生活を強いられた若妻の思いについて、後者はまだまだ女性が不自由だったウォートンの時代に通じるものとして、読者に伝えたかったのではないかと、そんなことを考えました。

語り手は男のときもありますが、幽霊話の中心にいるのは全て女性なので、そんなことを思いながら読んでいったらあの序文に行き着いたというわけです。

 

でもですね、明らかに、不思議なことがあって怖いでしょうっていってる話、ないですよ。人間が心の底に抱いている、人間関係での恐れや憎しみを描いているようにしか思えないです。

小間使いの女の子の幽霊が出てくる話があるんですが、彼女は、主人公の現役の小間使いの子に、女主人の不貞の相手の家への道案内をし、何か伝えようとします。幽霊の彼女とその不貞には何かしら関係があり、何らかの役割があったように暗示されますが、彼女の死因も含めて、全てがはっきりしません。ただ、怖くはないんです。周りが生前の彼女を怖がっている、というか、いなかったことにしようとしているんです。

あえていうなら、人間の直視しづらい現実や感情とセットになったものとして幽霊は描かれています。それに背筋がぞっとするかどうかは人それぞれだと思いますが。

 

あの序文には、最近幽霊話が通じないという話が出ていて、その理由にラジオや映画による想像力の欠如を上げていました。いわく、昔は苦労して時間をかけて吸収しなければならなかったものが、今は想像力の栄養となるものが調理されて出てくると。

そういう意味で読み応えのある作品集として、楽しめるんじゃないでしょうか。少なくとも私はそうでした。ゴシックな雰囲気を出すのは上手いし、ここ伏線なのかなあとあちらこちらが気になります。ぞっとしなくても、本当は何があったんだろうと、登場人物たちの背景や胸中に思いを馳せると、何度か読み返しても飽きませんよ。

 

追伸

日本版で加えた2編がこれも良い話なんですが、幽霊が出てこない!なぜこの作品集に入れたのか聞いてみたいです。

 

 shelleyan orphan 'shatter' 雰囲気で。