boofoooohの日記

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デイヴィッド・ガーネット「狐になった人妻」を読む

先日、長い時間かかってデイヴィッド・ロッジの「絶倫の人:小説HGウェルズ」を読み終わりました。ロッジの本は結構一気に読めちゃうんですが、これは濃かった。登場人物も多いし。職場で読んでるとこを見られ、何の本読んでるんですか?と面白そうな顔して訊かれましたが、そういう本でした。面白かったです。

そして、偶々手に取った本が、そのウェルズも絶賛ということで読んでみたのが、今回ご紹介する本です。

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「狐になった人妻/動物園に入った男」デイヴィッド・ガーネット

 

19世紀のイギリスが舞台で、由緒正しい家柄の出の、厳格に育てられた美しい妻が、新婚1年にして突然狐になってしまうという話です。主人公である夫の言葉は理解できて、最初は裸を恥ずかしがったり、2人でカード遊びなんかやったりするんですが、そのうちどんどん狐らしくなってしまいます。

散歩してるときに急に狐になっちゃうんですが、ここのところで胸を衝かれまして。これって一緒に暮らし始めたら、えっこんな人だったの…って話ですよね。何気ない言葉や行動から、全く違う人に見えてくる感覚。でもそっちの方が本当の姿という。身に詰まされました。

夫は、姿は狐でも心はたしなみのある人間のままでいて欲しいと願いつつも、妻への愛を貫き、狐である妻を受け入れようと努力します。そして、外に逃げ出そうとする妻を一生懸命引き止めようとするんですが、ついには牙を立てられてしまい、諦めて出て行かせます。

 

一応野生動物と文化的な人間の対比のように描かれていますが、でも英語の狐ってジミヘンのフォクシー・レディみたいなセクシーって意味がありますよね。 

 原題がlady into foxなんで自然とこれが。 

狐妻は出てってから子どもができます。狐が隠喩だとすると貞淑だと思ってた妻が実はビッチで、外でワイルドな男と子ども作っちゃったってことですよね。で、夫(元夫?)に子どもを見せに来るんですよ。

夫、大ショックですが、子狐かわいいんで、やがて妻とその子どもたちと過ごすことに生き甲斐を感じるようになります。でも狐なんで、危険と隣り合わせの生活に不安を覚えていたある日、妻が猟犬に追われ、屋敷に逃げ込んでくるんですが、猟犬に噛まれ、夫に抱かれたまま妻は死んでしまいます。

 

死んじゃうんだ、とちょっと意外に思いました。ビッチじゃだめなんだと。夫のもとに戻ってきて死ぬのも解せなかったですね。お堅いお屋敷生活から抜け出して、奔放に生きる女とそれに振り回される夫の話のように読んでたんで。

もっとも、この作品がメインに描いているのは、妻が狐になったことを受け入れるのに悶々とする夫の様子です。それが 全部こいつの妄想なんじゃないかと思うくらい、かなり滑稽というか狂気じみてるんですよ。例えが古いですけど、東京大学物語の村上君を思い出しました。変身初日に、危ないからっていきなり自分の犬殺しちゃいますからね。狐を妻と思い込んだ男の話とも読めるようになってるので、だとするとこのラストなのかとも思いますが。

感動を呼ばない一途な愛の話に、結婚に対する作者の意地の悪さを感じました。もう一つの「動物園に入った男」は、痴話喧嘩の末に売り言葉に買い言葉で動物園に展示される男の話で、これ、多分動物園の檻が結婚とか家庭の隠喩なんですよ。女の方が私もそこで暮らすって言って仲直りして、逆に男はそこから出れるんですが。2人の行く末は檻に囚われない生活なのか、それともやっぱり檻なのか、色んな読み方ができて面白いですけどね。それにしてもなあ。私は好きですけど。

 

君はいずこへ。