boofoooohの日記

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橋本治「愛の矢車草」を読む

今頃ですが、去年出た橋本治の「初夏の色」を読みました。一昨年から昨年にかけて書かれた短編を集めたもので、東日本大震災がところどころに顔を出しています。橋本治は独特の視点で時代を語り、小説でも同時代に向けた批判的な思考から書かれたものが多いのですが、これもそうした作品の一つといえます。しかし、震災がテーマとなっているわけではなく、震災によって動かされた人の心を描いています。

 

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草食系男子の話とかあって相変わらずだなあと思い。

 

橋本治の作品は、登場人物が抱える悩みや、何かの欠落について、読者が一緒になって考えるように書かれたものが多く、それはデビュー作の「桃尻娘」から変わらないのですが、そういう意味では物語というより、作者のメッセージを読んでいる気がしてきます。

最近の作品では、地味なシチュエーションが設定されていることが多く、それが作品を身近に感じられるようにしていますが、一風変わった物語を作るのも得意で、今回ご紹介するのはその中でもまたちょっと変わった作品です。

 

「愛の矢車草」は、80年頃(書き下ろしは2編は87年かもしれませんが、調べきれませんでしたスミマセン。)に書かれた短編(中編かな?)集です。4編ありまして、最初のが隣の大学寮に住む女子大生にオナニーしてるとこ見られちゃう予備校生の男の子の話。次が下着泥棒が公判の終わった後、弁護士に滔々と自説を展開する話。そして、巨漢のトラック運転手と食堂の中年女性の同性愛の話に続いて、最後が小学校5年生で父親になった高校生の話です。

 

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下着泥棒の話はしりあがり寿挿画で良い味出してます!

 

確か大学生の頃に読んだんですが、予備校生以外は我がことのように読まなくていいので楽しめました。いや、見られたことはないですよ、多分。下着泥棒の話は特に面白かったし、トラック運転手と食堂のおばちゃんの話が、ぎこちなさと切なさに溢れていて良かったです。ああ何か美しいなと思いました。

子持ちの高校生は、小学校5年生のときに、風俗やってた若い女に声をかけられて部屋に誘われ、そのうち妊娠させちゃいます。子供が生まれた後に、女の旦那がヤクザなんですけど殺されてしまって、その女も子供を残して消えてしまい、子供は孤児院(児童養護施設)に。以来彼は詳しい身許を明かさずに、子供に会いに面会に通い続けますが、子供の交通事故を機に、父親として子供と生きていくことを決意します。

いったんは実家で引き取るんですが、上手くいかなかったため、子供を引き取って家を出るんですけど、それまでの母親との一連の会話が泣けます。彼の生真面目な、他人を思う強い気持ちが感動的です。

 

最初の話以外はちょっとお伽噺的ともいえますが、登場人物の内面はしっかり描いています。今回改めて読んでみて、そういうとこは他の作品と変わらないなと思いました。それだけに肩の力が抜けたような下着泥棒の話が面白いです。

綺麗な装幀の新潮文庫版は残念ながら絶版で、ちくま文庫版も絶版みたいですが、古本屋や図書館などで探してみてください。挿画を高野文子しりあがり寿、奥村靫正、吉田秋生という超豪華陣が描いていて、それだけでも買いですよ。